2017年12月8日
髄膜炎菌は、まわりを莢膜(きょうまく)という厚い膜に覆われた細菌です。人の免疫機能によって排除されにくく、体内で増殖しやすい特徴があります。健康な人の鼻やのどの粘膜に存在しており、人から人へ咳やくしゃみなどを介して、鼻、のど、気管などの粘膜に付着します。体力が低下している時や、免疫系の疾患などがある場合には、その菌が血液や髄液に入り全身に広がると、菌血症や敗血症、髄膜炎になることがあります。
髄膜炎菌には、13以上の異なる種類(血清群)があり、このうち、ほとんどの感染原因はA群、B群、C群、Y群、W群の5種類といわれています。日本で2013年4月~2015年8月までに届け出があった侵襲性髄膜炎菌感染症の80例をみてみると、Y群が一番多く、次にC群が多くなっています。
侵襲性髄膜炎菌感染症は、発症後12時間以内は発熱、頭痛、吐き気などの風邪に似た症状を示すため、診断が難しく、早期に適切な治療が受けにくいので注意が必要です。発症から13~20時間が経つと、皮下出血や発疹、息苦しい、光を異常にまぶしく感じるなどの症状が起きはじめ、その後急激に悪化し、意識障害や痙攣を起こすことがあります。
髄膜炎菌は、放っておくと体中に回ってしまい、症状がどんどん悪化していきます。さらに、ほかの細菌と比べて100~1000倍の毒素を出し、症状の進みが非常に早いため、発症から1~2日以内で意識がなくなったり、ショック状態となり、そのまま死亡してしまうこともあるのです。
世界保健機関(WHO)は、侵襲性髄膜炎菌感染症の治療を行わなかった場合、約半数に及ぶ50%が死亡すると報告しており、適切な治療を受けた場合でも、発症後24~48時間以内に5~10%が死亡する可能性があります。
後遺症が残る確率も高く、早期に適切な治療を受けた場合でも、11~19%の割合で壊疽による手足の切断、聴覚障害や言語障害、知能障害などの後遺症が残ってしまうことがあります。
髄膜炎菌感染症は、人と人が長時間集まる場所で感染が広まります。日本国内の報告によると、0~4歳の乳幼児と10代後半の思春期の時期に発症することが多く、学校や寮、大規模なイベントなど、たくさんの人が集まったり、狭い空間での共同生活が感染の原因と考えられます。また、髄膜炎菌は、唾液を介して感染するため、食器類の共有、ペットボトルの回し飲みなどによってうつることもあります。
髄膜炎菌性髄膜炎は、2012年3月に、感染した場合は、「症状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認められるまで出席停止とする。」として、学校保健安全法の「学校において予防すべき感染症(学校感染症)」に指定されました。感染した場合は、保健所と病院へ速やかに連絡し治療を急ぐだけでなく、周囲へのワクチン接種、抗菌薬の予防投与を行うことを促し、さらなる感染の拡大を防ぐ必要があります。
髄膜炎菌感染症はワクチンで防ぐことができます。乳児期、思春期の感染を避けるため、早めに接種しておくことが重要です。日本脳炎ワクチンの標準的な定期接種対象年齢の3~5歳頃に合わせて髄膜炎菌ワクチンの接種を検討すると良いでしょう。
また、思春期の場合は、DT(2種混合)ワクチンを接種する11歳頃に合わせて、髄膜炎菌ワクチンの接種を検討してください。
ワクチンは「メナクトラ」という名前で、1回18,500~25,000円程度(自費)かかります。
侵襲性髄膜炎菌髄膜炎の発生頻度は他国に比べると日本は非常に低いですが、近年、海外からの観光客も増えており、渡航者が持ち込みアウトブレイクする可能性もあります。
また、寮や合宿などの集団生活をする場合や、髄膜炎菌が流行している地域への渡航は、感染のリスクが特に高くなります。まだワクチンを打っていない、打ってから時間が経っている場合は、多くの人が集まる場所に出かける前に、専門医に相談しましょう。