2020年10月6日
重症筋無力症とは、全身の筋力が弱くなったり、疲れやすくなる病気です。特にまぶたが下がってきたり、ものが二重に見えるなど眼の症状が多くみられます。2018年の全国疫学調査によると患者数は29,210人で、ここ10年で約2倍近く増加しています。女性に多くみられ、発症のピークは女性は30~50歳台、男性は50~60歳台です。
早期診断、早期治療によって発症後も約半数の患者は支障なく生活を送ることができています。
人間の体のすべての骨格筋には、神経筋接合部と呼ばれる末梢神経と筋線維の継ぎ目が存在します。この神経筋接合部において、神経側から放出されるアセチルコリンという伝達物質が、筋肉側のアセチルコリン受容体で受け取られると、筋肉の収縮が起こります。重症筋無力症は、自己免疫によってこのアセチルコリン受容体の働きを妨げる抗体が産生され、筋肉が指令に十分に対応できなくなることで、筋力低下が起こる病気です。抗体が産生される原因は明らかになっていませんが、抗体がみられる患者の約75%に胸腺(心臓近くにある免疫に関係する器官)の異常がみられることから、何らかの関連性があると考えられています。
重症筋無力症の主な症状は疲れやすさと筋力の低下で、発症した骨格筋の場所により2つの病型にわけることができます。1つ目が眼にのみ症状が表れる「眼筋型」です。全身の骨格筋の中でも、眼の骨格筋は特に発症しやすく、重症筋無力症を発症した患者の90%以上に眼症状が表れるとされています。代表的な症状は、まぶたが下がる眼まぶた下垂や、ものが二重に見える複視などです。
2つ目が全身に症状が表れる「全身型」です。全身型では、ものがうまく持てなくなったり、少し歩いただけで疲れてしまうといった手足の症状や、発語や嚥下に困難が生じる口周りの症状、呼吸機能低下による呼吸困難や息苦しさなどさまざまな症状がみられます。しかし、発症する骨格筋やその度合いには個人差があるため、全身型になったからといってこれらすべての症状がみられるわけではありません。また、発症初期には眼の症状しかみられない場合でも、病気の進行とともに全身型に移行することがあります。
そのほか、重症筋無力症は、1日の中で症状の度合いが変化することが特徴です。一般的に、起床時よりも疲労が蓄積した夕方の方が症状が重くなるとされています。
重症筋無力症の治療法は、免疫療法と対症療法があり、主に免疫療法が行われます。免疫療法は、発症の原因となっている抗体の産生を、薬などで抑制し取り除くことで、免疫異常を改善する治療法です。使用する薬にはステロイド薬や免疫抑制薬などがあり、長期にわたって服用する必要があります。
対症療法には、コリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる内服薬を用います。コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの働きを抑えることで、信号伝達を増強する薬です。全身の症状が素早く軽快しますが、効果は一時的です。
全身型で胸腺腫を合併する場合は、外科的にこれを取り除く必要があります。胸腺腫は早期に発見されれば、一括して切除でき、生命予後の良い腫瘍です。また、胸腺腫がない場合の胸腺摘除術についても、有効性と安全性が示されています。
そのほか、抗体を取り除く血液浄化療法や、大量の抗体を静脈内投与する大量ガンマグロブリン療法などのさまざまな治療法があります。難治例には新薬も開発されています。かかりつけ医と相談し、発症年齢や病型、進行度合いなど、病状に合わせて適切な治療を行うようにしましょう。